最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)78号 判決 1951年6月15日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人及び弁護人渡辺一男の各上告趣意は末尾添附の別紙書面記載の通りである。
被告人の上告趣意について。
所論は、畢竟、事実誤認及び量刑不当の主張に過ぎないから、適法な上告理由ということができない。
弁護人渡辺一男の上告趣意について。
原判決は第一審判決を破棄し自ら判決を為すに当り、公訴事実中強盗の点につき、訴因罰条の変更手続を経ることなく、恐喝の事実を認定していること所論の通りであるが、元来、訴因又は罰条の変更につき、一定の手続が要請される所以は、裁判所が勝手に、訴因又は罰条を異にした事実を認定することに因って、被告人に不当な不意打を加え、その防御権の行使を徒労に終らしめることを防止するに在るから、かかる虞れのない場合、例えば、強盗の起訴に対し恐喝を認定する場合の如く、裁判所がその態様及び限度において訴因たる事実よりもいわば縮少された事実を認定するについては、敢えて訴因罰条の変更手続を経る必要がないものと解するのが相当である。そして、論旨が引用している札幌高等裁判所の判決(昭和二四年新(を)第一〇二、一〇三、一〇四号、同年一二月三日判決、高等裁判所判例集第二巻第三号二八二頁所載)も亦、強姦致傷の起訴に対し強姦を認定する場合につき、この理を明らかにしたものと考うべきである。従って、原判決はむしろ、右判例と同旨に出でたものというべく、これと相反する判断をしたものとは考えられない。論旨は理由がない。
なお、記録を調べても、本件につき刑訴法第四一一条を適用すべき事由は認められない。
よって、同法第四〇八条第一八一条第一項に従い、裁判官全員一致の意見を以って、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)